山を愛して半世紀

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10月8日(月)私が小林ムツさんを知ったのは10年程前のNHKドキュメント「ムツばあさんの花物語」という感動的な番組であった。
秩父の山中で暮らす老夫婦、小林ムツさんと公一さんが生活の糧としてきた畑を山に戻す姿と大田部楢尾集落の人々のつながりを紹介したものである。
その後の第二作「ムツばあさんの秋」、第三作「ムツばあさんのいない春」は人間愛と郷愁に誘われて涙なくしては視れない内容で制作ディレクターの人柄も知れる。

10月7日劔岳山行を終え、その足で富山から埼玉県秩父市吉田大田部に向かった。
行程300㌔以上長野県塩尻市〜佐久市で一泊〜十国峠を越え群馬県上野村〜大田部へは昼前の到着となった。
カーナビの案内するままに楢尾地区に着いたものの想像を超える山中で人影は全くなく心細くなってきた。
舗装道終点の家に車が止めてあり人の気配があったのでムツさんの家を尋ねる。
「ムツさん宅は反対側の集落ですよ・・これからムツさんと義理の姉妹のところへ所ですから一緒にどうですか」とたまたま帰省していた御婦人に誘われた。
私はそれまでの緊張と不安感から解放され、なんと親切な応対をしてくれる人だろうかと嬉しくなった。
それから黒澤さんの家へ。ここはムツさんの夫である公一さんの本家にあたるところで今では80歳を越えたおばあちゃんと息子さんが暮らしているという。
「遠いところごくろうさんです。昼飯でも喰っていかんかい」と云われ甘えてしまう。
部屋には「氷川きよし」のプロマイドや旅回り役者のポスターが所狭しと貼付けてありおばあちゃんの楽しみのひとつのようだ。
在りし日のムツさん、公一さんの話を聞いた後、写真を撮らせていただきムツさん宅へ向かう。

来た道を引き返すこと10分あまり見覚えのある公園に着いた。
公一さんが植えたモミジそして休憩用のテーブルと椅子「通りすがりの人がこのモミジに目を止めしばらく時を過ごしてくれたらどんなにうれしいだろう」そんな思いで作った小さな公園である。
第二作「ムツばあさんの秋」のなかで新井武さんは「このモミジは大木になり楢尾のシンボルになるね」と言っていたがまさに楢尾のシンボルとなり旅人の目をひきつけている。
急斜面のひと1人歩ける道を登っていくとムツさんの家があった。
玄関前には行き先を示す石盤と訪問ノート、縁側には二人の在りし日の写真が並べてあり思わず番組の1シーンが蘇る。
「ムツさんいますか・・・」と呼びかけると屋根の上から「ここにいるよ」とムツさんのやさしい返事が返ってきそうで胸が熱くなりしばらく無言の時を過ごした。

このあと地区の世話役である新井武さんを訪ねる。
新井さんは終戦を熊本で迎えたようで熊本城や阿蘇の思い出を語り始め私も「政令指定都市になったこと」など大きく変化した熊本の近況を報告する。
「ムツちゃんの墓を案内しよう」といって集落はずれにある墓地へ。日当りの良い墓地には小林家の真新しい墓碑が建っていた。
武さんが「取材当時5戸9人いた住人は今3戸5人になっている」と寂しそうに話してくれた。
番組のなかでムツさんが最後に花木を植えた「すわのくぼの畑」にも案内され時を忘れ説明に聞き入った。
武さんは林業のかたわらコンニャク栽培をしている。コンニャク畑は傾斜のきつい斜面に植え付けから収穫まで一切が人の手によるもので大変だと言う。
また自慢の杉天然絞り丸太(でじぼ)林にも案内され育林の苦労話を聞く。
私が「後継者はいるんですか」と訪ねると「それはわかんねー・・・木が好きなんだー、木はじっと年輪を重ねるだけで嘘は言わねぇからね」と返し山里で暮らす楽しみと満足感にあふれていた。

気がつけば夕日が沈みかけ帰る時間となっている。
今回はじめて大田部楢尾を訪ねて「限界集落」の実態とそこで生活するお年寄りの活き活きとした姿にふれ経済優先でない「人生の価値観」があることを知り頼もしく思った。


      今は住む人がいないムツさん、公一さんの家だが多くの人が訪ねてくる
ムツさんが暮らした家

              公園でくつろぐ公一さんとムツさん
公一さんとムツさん

                 柿剥きをするムツさん
在りし日のムツさん





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2012.10.26 / Top↑
我が家の壁に色あせた一枚の写真が掛けてある。
38年前私がまだ20代のときの裏劔仙人池で撮ったスナップ写真である。
友人と仙人池ヒュッテ主人志鷹静代さん(当時40代)の3人で背景の山は劔岳の八ツ峰が天を指すように聳えている。
写真を眺めるなかで「志鷹のおばちゃんはどうしているだろうか・・・」と想いを巡らし山小屋のホームページを検索し始めたのは3年前、すると今も元気で山小屋に通っていることがわかった。(3年前)
「会いに行きたい」と昨年から山行を計画しこの秋実行する。
コースも当時と同じ欅平〜阿曽原温泉小屋〜仙人池〜室堂とし日程も余裕の4泊5日とした。
秋としたのは紅葉のベストシーズンを狙ってのことで仙人池に2日間停滞しての写真撮影を目的とした。

熊本から富山までの足は私の愛車「スバルサンバー」片道2日間かけて1200㌔を往復する。
自家用車を使うメリットは天候待ちの調整ができることである。今回も台風21号を追いかけるように9月30日に出発し天気の回復を待って入山は10月3日となった。
欅平から水平歩道を歩くこと5時間少々バテ気味で阿曽原温泉小屋に着く。
ここは黒部ダムの資材運搬用路(トロッコ電車路)でもっとも困難を要した高熱隧道に遭遇した地点であったため豊富な温泉が湧き出ている。
三十数年前の思い出を温泉に浸かりながら懐かしむ。

2日目のコースは仙人ダムを経由して急登の雲切新道を仙人池ヒュッテめざして進む。
実はこの雲霧新道は3年前に新設されたコースで以前の仙人谷コースは荒廃が著しく危険であるた
め山小屋関係者が苦労して造ったものだ。
しかし、この新道標高差が1000m以上で直登となることから最初からハシゴ、ロープの連続でかなりの体力を強いられる。
途中で出会った関電作業員から「このコースを登りに使うとはたいしたもんだ・・・」とおだてられ、その気になって頑張ってみたものの年齢にはかなわず参考タイムの3割増しで仙人池ヒュッテに到着した。

この日の山小屋にはプロ・アマチャーのカメラマン十数人泊まるようで仙人池のほとりには早くもカメラの三脚が陣取っている。
私が志鷹おばちゃんの話を持ち出し当時の写真を見せると「3年前から足が悪く小屋までは来れなくなった。芦峅寺で元気でいるよ会いに行ってくだされば喜ぶよ」と小屋の切盛りをしている脇さんが答えてくれた。(芦峅寺は立山町の一集落で劔岳を開拓した長次郎など多くの山岳ガイドで有名な地)
少々寂しい思いもしたが「もう83歳だからそうかも知れない。これからも元気で長生きしてください」と返し部屋でくつろぐ。
この小屋自慢の檜風呂で疲れを癒したあとの豪華な夕食(トンカツ)には驚かされ、三十数年前の食膳にならんだイナゴの炒めもの、山菜とふと比較してしまった。

3日目はまずまずの天候で終日写真撮影となった。
同室の二人も写真目的で入山しておりかなりのマニアらしい。カメラもさることながら撮影テクニックの話が詳しく私はうなづくだけで返す言葉がない。
撮影方法や山の話をしながらめまぐるしく変化する八ツ峰の岩峰をカメラに収めまくり一日を過した。
夜になり二人はここに来るまで膝や足を痛めたらしく話の合間にやたらと気にしている。私の常備薬である痛み止め、湿布薬を分け少しでも楽になればと願いつつも岐路のことが心配になった。

4日目は仙人池〜劔沢〜劔御前小屋の一度400m高度を下げて再び1000mを登る疲れるコースだ。
三の窓の圧巻が迫る二股でも写真撮影、三十数年前は7月であったため谷沿い一面の雪渓で最高の写真を撮ることができたが今回は石ころだらけの物足りない風景となった。
長次郎谷出会にある真砂沢ロッジで休憩。主人の佐伯成司さんは海外遠征豊富な現役アルピニスト兼登攀ガイド、気さくな性格で「イモトの源次郎尾根登攀逸話」など話してくれた。
10月中旬には小屋を閉めてニュージランド遠征登山を計画しているとのこと。
日本三大雪渓のひとつである劔沢雪渓はこの時期でも豊富な残雪を残し所々にクレパスが口を開けていた。(危険カ所では富山県山岳警備隊が指導していた)
劔沢小屋近くまでくると紅葉が真っ盛り、ナナカマドの真紅とハイマツの緑が絶妙のバランスを保ち自然界の芸術を堪能できたが曇り空のため写真写りは今ひとつと言った感じである。
午後4時には予定の劔御前小屋に到着このころから風が強まり小雪が舞い始める荒れた天気となり山の厳しさを知らされる。
明日は最終日、室堂まで僅かの行程であるが積雪にならないことを祈り早めの床についた。


           1973年(S48)仙人池のほとりで右端が志鷹静代さん
志鷹おばちゃんと

             今回は孫の正博さんと同じ場所で
孫の正博さん

             仙人池とドロミテ(イタリア)に似ている劔岳八ツ峰
池と八ツ峰

                   日没の八ツ峰
八ツ峰 3

                 三の窓に沈む太陽
三の窓に沈む太陽

                  静寂の八ツ峰
夕刻の山小屋

                劔沢雪渓は消えることはない
10月の劔沢雪渓

               ナナカマドと源次郎尾根そして劔岳
ナナカマドと劔岳




2012.10.14 / Top↑
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